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さようなら……

さようなら……


告知

ある母親がガンになりました。
手術の病理で判明したのです。

外科の先生は言いました。

「転移している可能性が高いですから、
 すぐ化学療法を始めましょう。」

家族は彼女を傷つけまいと、
告知しないと決めたのです。

当時は患者自身に告知しないのが当然でした。

今でも認知症の高齢者や、
告知によって恐怖に耐えられず、
自殺する恐れが明らかな場合、
やはり告知を見合わせます。

ところが厄介な事になりました。

この女性は強情で、
家族の言うことを一切聞きませんでした。

「良かった。ガンじゃないなら、
 もう通院もしなくていいわね。」

家族は真っ青になり、
「念のためだから」と説得しようとしました。

けれども彼女は一切聞く耳を持ちません。
もともとそういうわがままな人でしたから。

こういうことは珍しくありません。

手術は局所の病巣を摘除しただけでしたから、
化学療法なしでは再発する可能性が大だったのです。

けれども最初に告知しないと決めましたし、
この女性の夫は優柔不断な人間でした。

余計なことを言ったが最後、
妻はヒステリーを起こして喚き散らします。

それも何時間も何時間も、
ご近所に丸聞こえでもやめません。

長男は必死になって、
何とか病院に行くよう懇願しました。

けれども母親は彼をあざ笑い、
「誰がお前の言う事なんか聞くもんか!」

居丈高になって怒鳴った挙句、
「親不孝者!」と唾を吐きかけました。

若い次男もこの母親に似て、
強情で残酷な人間でした。

「兄貴は親不孝な奴だな。
 母さんがガンだとでも言うのか?」

家族は次男にも真実を告げていませんでしたから、
次男は何も知らなかったのです。

次男は母親と一緒になって、
悲しみを押し隠した長男に、
かわるがわる暴言を吐き、
時には暴力をふるったのです。

父親は何もしませんでした。
長男は苦しみ抜きました。

もう就職していた長男ただ一人が、
心に悲しみと孤独と絶望を抱えておりました。

母親を心配した長男は、
出来る限り実家を訪れました。

そんなある日、
ガンが再発したのです。

それでも半年以上この冷酷な母親は、
病院にも行こうとしませんでした。

やがて腰にひどい痛みが走り徐々に体重が落ちたころ、
長男の言葉は踏みにじりながら、
自分の妹に勧められて、
この母親は総合病院を受診したのです。

外科の先生は父親と長男を、
睨むようにして冷たく告げたのです。

「腰椎と胸椎に一か所ずつ転移による病的骨折があります。
 腰が痛むのはそのせいでしょう。」

長男の頭が真っ白になりました。
父親は愛想笑いを浮かべておりましたが。

「もう手術はできませんから化学療法を実施します。
 余命は長くて一年ぐらいでしょう。」

外科の先生は吐き捨てるように言いました。
「もっと早く受診して頂いていればねえ。」

それから一年後、
この母親は死にました。

この人は死ぬほんの数日前まで、
介護してくれていた妹達に暴言と暴力を浴びせていました。

長男は胸が張り裂けそうな思いでこれを聞き、
次男は母親と一緒に叔母たちに暴言と暴力をふるい続けていたのです……



別れ

「先輩、好きですよ。」

大学のサークルの後輩の少女が、
ある先輩に告げました。

先輩は冗談だろうという仕草で、
「俺みたいなのはやめときなよ」と言ったのです。

ほとんど幽霊部員でしたから、
その先輩が部室を訪れたのは、
それから半年も経った頃でした。

暇にあかせてある日曜日に、
その先輩は汚い部室に入ったのです。

すると部室の畳には、
小さな花束と一緒に手紙が置いてあったのです。

「この度は娘の葬儀にご出席いただき、
 まことにありがとうございました。」

先輩は真っ青になりました……

後で知った事でしたが、
その少女は長い間うつ病に苦しんでいて、
精神科に通院していたのでした。
複雑な家庭の娘さんだったのです。

「俺が彼女を死なせたんだ!」
先輩はわが身を責めました。

死んだ者は生き返りません。
どれほど周囲の人たちが、
自らを責めて後悔しても……

十数年も経った頃、
複数の友人や肉親に死なれた後で、
この先輩は悲しく諦めたのです。

「仮に俺があの時、彼女を受け入れてあげたとしても、
 結局は彼女を救えなかっただろう」と。



さようなら……

若者がその女性に出会ったのは、
関連会社の合同懇親会でした。

母性的で優しそうな同年代の女性は、
若者を魅了するに十分だったのです。

けれども彼女の会社はずいぶん遠く、
恥ずかしがり屋の若者は、
少し離れたところに立って、
仲間とふざけた話をするだけで精一杯。

寂しかった若者は、
おっとりした彼女に憧れましたが、
しばらく彼女の話を聞いて、
自分とは住む世界が違うと悟ったのです……

パーティーがお開きになった時、
その女性は若者のところに近づいて言ったのです。

「この近くの地下鉄の駅はどこでしょう?」
若者はすぐ仲間に尋ね、
「さようなら。お気をつけて」と言うと、
踝を返し歩み去ったのです。

女性とは反対方向に。

その後、この若者は、
この女性に再会する事はありませんでした。

今ではその女性の面影さえも、
若者は思い出せなくなっています……

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出会いは別れに終わるもの……

(出会わなければ別れもないよ。
 孤独で居ればいいんだよ)

雨の夜の暗い闇の底で、
私の寂しい心がつぶやいている。

けれども私は思う。

どんなに悲しい別れでも、
胸張り裂ける別れでも、
出会いがなければ別れもない。

私は全ての出会いに感謝し、
全ての別れに感謝する。

全ての出会いに花束を。
全ての別れに花束を。
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コメント

No title

訪問ありがとうございます。こころ光るステキなブログですね。私のは、とっても幼いです.....私は、こころだけで生きているような人間であり、そこにただ形ある身体がついているという感じがあります。これからも続けていきましょう。ありがとうございました。

Re: コメントありがとうございます。

花も宝石も、
様々な色があり、
様々な形があり、
様々なデザインがあるからこそ、
世界は美しいのではないでしょうか?

誰が誰より優れていて、
誰の作品が誰の作品より優れているのでしょうか?
そんなことには何の意味もないのです。

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