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後妻。

後妻

その娘は商家の3女だった。

長男が一人いた家で、
娘は利発で進学を望んだけれど、
女性に学問など必要ないという、
時代遅れの父親だったし、
母親は嫁いびりから我が身を守るのに手一杯で、
娘達の進学になど何の関心もなく、
中学を卒業した段階で、
役にも立たない娘は都市部に住み込みで就職させられ、
正月にもめったに帰省できなかった。

長男は死に長女は婿養子を取ったが、
我がままな長女とDVで怠け者の婿養子は、
毎日毎日掴み合いの喧嘩に明け暮れ、
不満だらけの長女は我が子をいじめて憂さを晴らしていた。

都市部で就職した娘は姉にせびられ、
給料の大部分を巻き上げられ、
長女が金づるにするために、
いくつかあった縁談さえも、
全部、握りつぶされた。

(まじめでお人好し、
 善良な娘だったのに……)

長女は離婚するでもなく、
自分で仕事をするでもなく、
時折夫に殴られながら、
延々と妹に金を貢がせた。

(誰も言ってはくれなかった。

「あんたの姉は人間の屑だ。
 こんな人間とは縁を切れば良い」と)

実の両親にさえ愛されず、
学歴の夢も就職の夢も、
一切、顧みられなかった哀れな娘にとっては、
勝手気ままで怠け者の姉であっても、
父母が死んだその後には、
唯一の肉親だったのだ。

(妹は姉だと思っていたが、
 姉は妹を奴隷だと思っていただけ……)

やがて哀れな娘は60歳を過ぎたが、
血も涙もない姉はガンで死んだから、
ようやく地獄に光が射した。

姉は残酷な悪魔さながらだったが、
甥はこの叔母に親切だった。

孤独を悲しむ自分の叔母に、
結婚相談所に登録する事を勧めてやった。

叔母は甥の言う通り、
素直に結婚相談所に登録した。

見るからにお人好しで苦労人だったから、
貯金は大して無かったが、
かつて県会議員だった建設会社の会長を、
結婚相談所は紹介してくれた。

(結婚相談所の職員は、
 多くの人を見ているから、
 この人ならばと思った場合、
 好条件の相手を紹介してくれる。

 逆にろくでもない人間は、
 男女ともろくな相手を当てがわれない)

相手は豪放な好人物だった。
最初の妻にはガンで死なれ、
老後の寂しさで後妻を求めていると言う。

「女性に経済力など要求しない。
 金なら私が持っているから。
 性格の良い女性であれば、
 持参金などゼロで構わない。」

何しろやり手の男だったから、
最初の結婚では多少の浮気もあったけれども、
実際に糟糠の妻に死なれてみると、
自分が酷い事をしたのだと、
この男性は気付いて居た。

しばらくして2人は再婚したが、
男性は二度と浮気はしなかった。
もう第一線は離れていたし、
何人もの孫が居た事もあり、
そんな年でもなかったのだろう。

男性は後妻のために、
会社の機材を安く使って、
2人のための家を新築し、
家と土地とは後妻の名義にしてやった。
この女性の苦労を知ったから。

男性は旅行好きだったから、
後妻を連れて外国にも行った。

楽しい旅もあったけれども、
疲れるだけの旅もあった。
だが経済的には豊かだったから、
金に苦労する事は一切なかった。

自分一人で仕事に励み、
姉に金を貢がされた哀れなこの女性には、
ずいぶん幸せなひと時だった。

近隣に土地財産を奪われかけた時には、
入院していた男性に代わり、
女性は必死に駆け回り、
市役所その他に掛け合って、
男性の土地財産を守り抜いた。

けれども二十年以上経った頃、
男性はとうとう寝たきりになり、
後妻は毎日介護に苦しんだ。

男性の長男長女は後妻を嫌い、
介護してもらっている事は棚に上げ、
滅多に見舞いにも来なかった。

男性の敷地には孫夫婦の家が建ったが、
祖父の介護もしなければ、
後妻を構ってやる事もなかった。

やがて男性は介護施設と病院を行き来するだけになり、
とうとう息を引き取った。

後妻は悲しみの涙を流した。
たとえ70歳を過ぎていようと、
悲しみの深さは変わらない……

たとえ連れ合いが寝た切りでも、
後妻には大切な家族だったのだ。

やがて四十九日も終わり、
潮が引くように人々が立ち去った。

一人残った哀れな女は、
たった一人ですすり泣いた……

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