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夢枕……。

夢枕……。


老犬が亡くなって3,4日経った時、
夫は犬の後姿を、
まどろみの夢で一瞬見た気がした。

この犬は散歩の時にも、
リードを持つ手が痛くなるほどぐいぐい引っ張り、
脇目もふらずに歩き続けていた。

たまりかねて夫は皮手袋をして散歩に出ていたほどだ。
夫から見えていたのは犬の後姿と背中。
夢で見たのも同じ姿だった。

忙しそうに歩いてゆこうとする犬……
死んでも性格は変わらないと言うが、
犬でさえそうなのだろうか?


老犬が亡くなって一週間ほど経った頃、
今度は妻が犬を見た。
妻が居間に座っている時に、後ろ姿の犬が、振り向いて妻の顔を見たと言う。

「ああ、バブちゃんの幽霊が来てくれた!」
その時、妻はそう思ったそうだ。
気が付いたら妻はベッドで寝ていた。

「居間でバブちゃんの姿を見たから、
 てっきり幽霊だと思ったけど、
 やっぱり夢だったんだね。」

妻が小学生の時、
マルチーズを家族が飼っていて、
可哀想に生後2,3歳の時、交通事故で死んでしまった。

普段は妻のベッドの上で寝ていた犬だった。

泣きじゃくっていた小学生は、
暗闇の中でいつものように、
マルチーズがベッドに飛び上がってくるのを聞いた。

小さな犬はいつも通り優しくクンクン鳴いて、
大好きなご主人様に挨拶した。
これもいつもの習慣だった。

目が醒めた時、小学生の娘は思った。
「あれはワンちゃんの幽霊が来てくれたんだ!」
そう思うと随分慰められたと言う。

「あいつはマイペースな奴だったから、
 僕が見たのは背中だけだった。
 でも君には一番懐いていたから、別れの挨拶に来たのだろう。」

「もう行くね」――犬はそう思っていたのだろうが、
大好きなご主人様が会いたがっていたし、
後ろ髪を引かれるような思いで振り向いたのだろう。


死んでしまえばもう肉体はないから、
病気の苦しみからも完全に解放され、
食事をする必要もなく、飢えず、乾かない。

もうあの子はこの世での役割は十分果たしてくれたのだ。

生きている間は生存本能があるから、
誰もが「死にたくない」と思うし、
それはこの世に生きている者には絶対に必要だ。

けれども、もうあの世に旅立ってしまったら、
この世での仕事が終わったら、
この世の縛りからは解放される。

きっと人も、犬も、どんな生き物も、
ひとたび魂が解き放たれれば、
自由に好きな場所に行き、したい事を出来るようになるのだろう。


それがあまりに居心地良いから、
太古の人々はあの世をこう呼んだ。
「極楽、あるいは天国」と。

この世に残った者達は、
去ってしまった命を惜しむが、
いつまでも悲しみに囚われていてはいけない……

亡くなった命を大切にしてやりたいのなら、
快く送り出してやらなければ。
「ほら、もう苦労は終わり。これからは本当の自由が待っているよ」って。

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真夏の夜の夢

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看取り。  (死出の旅……)


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老犬が病気になった。
何度も吐くから獣医に連れて行くと、
採血とエコーで「肝臓ガン末期」だと判明した。

「人間の年齢なら85歳ぐらいですから仕方がありませんが、
ここまで進行すると何もしてあげられません。」
腕利きの獣医がそう告げた。

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2日もすると食べ物を受け付けなくなった。
水を飲んでも吐いてしまう。
ほんの少しずつ与えると貪り飲んだ。

4日目にはまだ歩き回っていた。
もともと腰椎椎間板ヘルニアがあったのに。
だが、5日目には歩けなくなった。

暑いからお気に入りの冷たい玄関の土間で寝させ、
マットを敷いて妻が玄関で一緒に寝てやった。
老犬は、まだその晩は時折泣くだけだった。

けれども時折体を起こして、
じーっと夫か妻の顔を見る。
「パパ、ママ、そこにいるよね。」と言うように。

6日目の夜には夫が玄関で寝たが、
「クーン、クーン」と胸が張り裂けそうな悲しい声で泣き、
合間にはハアハア喘いで苦しそうだ。

「パパ、ママ、そこにいるよね。
 苦しいよ、辛いよ、悲しいよ。
 死にたくないよ、死にたくないよ!……」

犬は悲しい目をしてはっきりそう語っていた。
胸が迫るほど悲しげに、そして寂しげに。
犬も人も、その思いと気持ちに、どんな違いがあるだろう。

午前2時には妻が聞きつけて、
しばらく一緒に背中をさすってやったが、
老犬は苦しげに喘ぎ泣き続けた。

その頃には体を起こすのも苦痛なようで、
顔だけを何度か持ち上げ夫婦の顔を見ては、
すぐぐったりと頭を垂れてしまった。

午前4時には耐えられなくなり、
夫婦は自分達の部屋で寝たが、
犬の声は朝まで止まなかった……

7日目には前夜から泣き続け、
朝にはおむつにたっぷりおしっこをして、
玄関や身体も濡れていた。

夫婦は2人で犬を連れだすと、
風呂のお湯で体を洗ってやった。
疲れた犬はしばらく静かにしていた。

けれどもお昼頃になると、
「クーン、クーン」が「エーン、エーン」になった。
もう口が十分開けられないから、くぐもった声になったのだろう。

可哀想に、まるで赤ん坊か子供が泣いているようだった……

それでも真夜中になる頃には、
犬は荒く苦しげに呼吸するばかりで、
もはや声すら上げなくなった。

頭をもたげる事もなくなった。
昏睡状態になったのだろうが、
目だけはしっかり開いていた。

犬が泣かなくなったのを見て、
夫は妻を促して寝室で寝た。
(朝までもつだろうか)といぶかりながら。

翌朝、夫は5時半に目が醒めた。
妻ももう起きてベッドに横になっていた。
「見に行くのが恐い」と言った。

「じゃ、俺が見て来るよ」
夫は目をこすりながら見に行った。
老犬は冷たくなっていた。

大きく両目を開いたまま……

「やっぱりもう死んでたよ。
 もう硬くなっているから、
 何時間も前に死んだのだろう」

「最後には昏睡状態で意識がないから、
 僕らが寝に行った時には苦しみもなかったはずだ」
「そうよね」と妻もうなづいた。

おむつから漏れた尿が少し溢れていたから、
2人は朝から犬を外に出し、
風呂の残り湯で玄関を洗った。

車に乗せる時に犬を入れる段ボール箱に、
妻は犬用のシーツをしいてやり、
夫が犬の亡骸をそっと入れてやった。

妻は犬のお気に入りのぬいぐるみと、
大好きな犬用クッキーと、
犬用のジャーキーを入れて封をした。

夫はいつもの通り朝食を済ませて仕事に行き、
妻は犬を動物用の火葬場で荼毘に付した。
さようなら、我が家の老犬よ……

犬が居なくなった家は変にがらんとして、
夫も妻も寂しがったけれども、
涙は別段流れなかった。

死ぬ数年前から後足が不自由になり、
半年前から時々尿失禁していたし、
数カ月前からは便失禁もあった。

犬用のおむつを当ててやったが、
それでも漏れる事がある。
2人は溜息をつきながら後始末してやっていた。

大切な家族とは言え、
介護に疲れ果ててしまうと、
涙さえ枯れてしまうと見える。

誰かの死を看取るのは辛く悲しい。
それが犬でも猫であっても、
人間であっても同じ事なのだろう。

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コメント

コメントありがとうございました。

こんばんは~♪
いつもお立ち寄りいただきありがとうございます。
今日は貴重なコメントも寄せていただきありがとうございました(*^^*ゞ
仰るように若者の一部に無知・無理解と歴史修正主義教育のせいで真実を知らないまま戦争の悲惨さもわからないで保守化の影響を受けている現実があります。
しかしそういう若者だけではなく真実を知って街頭で声を上げ始めている若者たちも増え続けていることに今後は期待したいと思います。
若者ではなく大人社会こそが変わる必要があると私は思います。

Re: コメントありがとうございました。

おっしゃる通りですね。
今後のご活躍に期待致します。

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